関連情報

日常生活で受ける被ばく

私たちは、航空機に乗っていなくても、地上で暮らしている間にも絶えず自然界から放射線を浴びています。国連科学委員会(UNSCEAR)の2000年報告によりますと、おおまかな年間の実効線量値として、宇宙起源の放射線から約0.4mSv、大地に含まれる自然放射性物質から約0.5mSv、飲食物から約0.3mSv、そして大気中にあまねく存在するラドン核種により約1.2mSv、合計すると年間約2.4mSvを被ばくしているとされています(図7 [更新版はこちら])。場所(地質、高度等)によっては、自然放射線によって年間10mSv程度被ばくしている場合もあります。一方、日本国内の測定値を基に算出した平均の被ばく線量は、上記の世界平均の値より少し低いようです。

図7. 主な自然 / 人工放射線源と代表的な被ばく線量値. [更新版はこちら]

自然放射線以外にも、日常生活で浴びる放射線として、診断や治療で受ける医療放射線があります。X線診断が広く社会に普及したことにより、その寄与は自然放射線に匹敵するレベルに達しています。加えて、近年のCT(コンピュータ断層撮影装置)等の高度画像診断技術の開発・普及により、医療放射線による一般の人の被ばくは更に増える傾向にあります。例えば、人間ドック等で胸部CT検査を1回受けると7mSv近く浴びることになりますが、これは自然放射線被ばくの3年分に相当します。放射線を用いた診断は悪性腫瘍の早期発見等に極めて有効な手段ですが、その利用に当たっては、被ばくのリスクを考慮して、不要な診断を避ける姿勢が重要と考えられます。また、上記の線量値は現在の値であり、今後の装置の高感度化等によって同じ医療情報を少ない線量で得られるようになることも期待されます。

余談ながら、1999年の東海村ウラン加工工場における臨界事故(通称「JCO事故」)で周辺住民の方々が受けた被ばくは、ほとんどが5mSv(自然放射線被ばくの2年分)以下でした。

不要な被ばくは避けるのはもちろんのことながら、原爆被災者の疫学調査等では100mSv以下の被ばくで有意な健康影響の発現は認められていませんので、上記のような日常生活で浴びている年間数mSvの被ばくによって健康が損なわれていると心配するのはあまり合理的な態度とはいえません。

ただし、地上で浴びている放射線とは種類やエネルギーが大きく異なる宇宙放射線については、ヒトの健康にどのような影響をもたらし得るか、まだ分からないことが少なくありません。高エネルギー粒子に特有の影響はあるのか、放射線感受性の高い胎児や幼児への影響はどの程度か、航空機搭乗時に受ける放射線以外の様々な要因(振動、昼夜の逆転、閉鎖空間でのストレス等)との相乗作用はないのか等々。このような不確かな点を明らかにしてくための努力が更に必要と考えられます。量子科学技術研究開発機構でも、こうした問題意識を持ちながら、人々の健康を維持・増進するという狙いの下で関連の調査研究に取り組んでいます。

>> 航路線量計算システムへ

(参考文献)
6-1) 岩崎民子 著: 「知っていますか?放射線の利用」, 丸善:東京, 2003.
6-2) 保田浩志: "航空機搭乗時の宇宙放射線による被ばくについて", 放射線科学, vol.48(9), pp.317-326, 2005.

ページの先頭に戻る